新入社員の定着率が低い原因は?定着率が低い企業の特徴や定着率を上げる方法も解説
更新日:2024年10月29日
公開日:2024年10月29日
新入社員が定着し長く働くことは、企業が発展し続けるための重要なポイントです。しかし、採用しても早期に離職してしまう新入社員は多く、定着率の低さに悩む企業がよくみられます。
この記事では、新入社員が定着しない企業の特徴やデメリット、定着率を上げるメリットと方法について解説しています。新入社員の定着率を上げる方法を取り入れ、コストカットや生産性向上につなげましょう。
目次
定着率とは?
定着率とは、一定期間内に企業に在籍している従業員の割合を示す指標のことです。高い定着率は、従業員が長期間にわたり企業に留まっていることを意味し、組織の安定性や従業員満足度が高いことを示します。
逆に低い定着率は、離職率が高く、従業員が短期間で退職する傾向があることを示します。この場合は、企業の人事戦略や職場環境に問題がある可能性があり、企業が発展していくためには改善していくことが必要です。
改善策を実施し定着率を高めることは、採用コスト削減や業務の効率化、経験豊富な人材の維持に繋がります。
離職率との違い
離職率は、社員が一定期間中にどれだけ離職したかを示す割合のことです。定着率と離職率はどちらも社員の割合を示す指標ですが「在籍している社員」と「離職した社員」どちらの割合を示すかが異なります。
離職率と定着率は対の関係になっていて、着目点によって使い分けられます。離職率は、企業全体での1年間の社員動向を表す際にもよく用いられる指標です。定着率は、1年後、3年後など一定期間後の新入社員の定着状況をみる際によく利用されます。
定着率の計算方法
定着率は次のような計算式で表されます。
(一定期間後の在籍新入社員数÷一定期間開始時に入社した社員数)×100=定着率(%)
例えば4月に20名が入社し、1年経過した時点で17名在籍している場合、「(17÷20)×100=85」になり、定着率は85%となります。新入社員の3割が3年以内で退職するといわれており、3年目の定着率が特に重要視されています。
新入社員の定着率の平均
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」(※1)によると、就職後3年以内に離職する人の割合は大卒者で32.3%という結果です。高卒者の場合は37.0%とさらに数値が高くなり、全体として新卒新入社員の3人に1人が3年以内に離職していることが分かります。
定着率は業界・業種によっても異なり、インフラ系や金融関連では高く、医療やサービス系では低いという結果です。自社の定着率が高いか低いか判断する場合は、同じような規模の同業種と比較することが必要です。
(※1)参考:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」
新入社員の定着率が低いことによる企業への影響
新入社員の定着率が低い場合、企業はコスト増や生産性低下、イメージダウンなどの影響を受けることが考えられます。
無駄な採用コストがかかってしまう
社員を採用する際には、求人媒体への出稿費やエージェントへのフィー、採用活動を行う担当者の人件費などさまざまなコストがかかります。社員の採用に多額のコストをかけるのは、入社後には戦力となり、自社に利益をもたらすことを期待しているからです。
しかし、採用した社員がすぐに退職してしまうと、採用にかかったコストの回収ができません。定着率が低い企業では、頻繁に新たな社員を採用する必要が生じるため、広告費や採用活動にかかるコストが増加します。期待した戦力も得られず、資金やリソースの無駄が生じ企業の損失につながります。
教育コストも増加する
採用した新入社員には、仕事をするうえで欠かせない知識やスキルを研修などによって教育します。一人前の社員になるまでには、段階的に継続して育成を行う必要があり、多大なコストがかかります。
しかし、教育を受けてスキルを身につけた社員が離職すると、新たに一から教育しなければなりません。新入社員の研修や育成にかかる時間と費用が多くなり、短期間で退職されるとその投資が無駄になります。
生産性が低下する
社員が離職すると職場に欠員が出て、人手不足により業務が停滞してしまいます。新しいメンバーが補充されても仕事に慣れるまでには時間がかかるため、業務の効率が悪くなります。
定着率が低い企業では定期的な新入社員の入れ替えにより、チームの生産性が安定せず、スムーズに業務を進めることが困難です。長く勤め経験を積んだ社員が不足するため、企業全体の効率が低下する懸念があります。
企業ブランドイメージの低下につながる
定着率が低い企業は、「働きにくい」「定着しない職場」といったネガティブな印象を持たれやすくなります。これが企業のブランドイメージを損ない、優秀な人材の獲得が困難になる可能性があります。
求職者は職安やインターネットで企業の情報をチェックしたうえで応募しますが、離職率が高い企業は敬遠されがちです。顧客に対してもネガティブなイメージを与える可能性があるため、売上に影響を及ぼす可能性もあります。
新入社員の定着率が向上するメリットとは?
新入社員の定着率を向上させることで、企業は以下のようなさまざまなメリットを得ることができます。
採用・教育コストの削減につながる
社員の定着率が高まると、頻繁な採用活動を行ったり、一から教育したりする必要が減少します。1人当たりの採用や育成にかかる費用は、数十万円〜数百万円ともいわれ、大きな金額です。
定着率向上によってそれら費用が抑えられるだけでなく、実施する採用担当者や教育担当者の負担軽減にもつながります。定着率向上は採用に伴うコストや研修にかかる経費を削減でき、資源を効率的に使用できるというメリットがあります。
社員のモチベーション向上につながる
定着率が向上すると職場内の人間関係が安定し、業務が滞りなくスムーズに進められるようになるのもメリットです。離職者が出ると、仕事の引継ぎで業務負担が増えたり、チームの雰囲気が悪くなるなどの影響がありますが、それがなくなります。
共に働く期間が長くなるとチームの一体感が増し、長期的な視点での仕事の満足度やモチベーション向上につながります。良好な人間関係や安定した職場環境は、社員のエンゲージメントを高めるのに効果的です。
企業の組織力が向上する
長期間勤める社員がいると、職場での一体感が出て信頼関係が構築されやすくなります。組織内での経験やノウハウの蓄積が進み、チームとしての能力や協力体制が強化され、組織力が高まります。組織力向上は、情報共有や問題解決の効率化に効果的です。
安定したメンバーで構成されたチームは、一人ひとりの生産性や組織全体のパフォーマンスを向上させる要因です。経験を積んだ社員は組織の意思決定や危機管理にも寄与します。
スキル・ノウハウを新入社員に引き継げる
定着率が高いことで、個人の持つスキルや業務ノウハウを後輩に効果的に引き継ぐことが可能になります。優秀な社員が離職してしまうと、業績に響くだけでなくナレッジやノウハウを引き継げないのがデメリットです。
定着率向上によってそのデメリットを防ぐことが可能になり、社員が長期的に企業に貢献することで生産性向上につながります。経験を積んだ優秀な社員が増えると、組織全体の知識の蓄積と継承が進み、経営に良い影響を及ぼします。
将来の幹部候補の育成につながる
定着率の低い企業では、世代の入れ替わり時に幹部候補が育っていないことが問題視されています。定着率が向上すると、長期的に働く社員が増え、経験豊富な人材を将来のリーダーや幹部候補として育成しやすくなります。
企業の内部でのキャリアパスが明確になることで将来がイメージしやすくなり、社員のモチベーションも向上できるでしょう。順調に幹部候補を育成できれば、企業の継続的な成長を支える人材の確保につながります。
新入社員の定着率が低い企業の特徴とは?
定着率の低い企業には共通する特徴がみられます。このような特徴を持つ企業は働きやすい職場づくりを意識し、改善することが大切です。
入社前と後のギャップが大きい企業
入社前に思い描いていたイメージと実際の業務や職場環境などの間に大きなギャップがあると、モチベーション低下につながります。これには、伝えられていた業務内容と違っていたり、希望していた配属先ではなかったりする場合も含まれます。
このような場合に新入社員は働く意欲が削がれ、早期に退職を考えるようになるでしょう。入社時の期待と現実との不一致が、定着率の低下を招く主な要因となるため、事前に正確な情報を伝えることが大切です。
職場の社員同士の雰囲気が悪い企業
職場の雰囲気や人間関係も社員の定着率に大きく影響する要素の一つです。ハラスメントの有無や上司と部下の関係性など、職場の雰囲気が悪いと、新入社員はストレスを感じやすくなります。
慣れない仕事に加えて人間関係のストレスが溜まるとモチベーション低下につながります。職場の人間関係の悪化を放置していると、社員は働き続ける意欲が減少し、定着率や生産性が下がる原因となるでしょう。
残業が多い企業
近年では働き方の多様化が進み、企業も仕事とプライベートの両立を重視するようになってきました。しかし、長時間労働や頻繁な残業が常態化している企業もまだまだあります。そのような職場では社員のワークライフバランスが崩れやすく、ストレス増加の原因となり得ます。
長時間労働によって心身の疲労が蓄積されると、休暇を取ってもリフレッシュしにくくなるのが問題点です。過労や労働環境の悪化はモチベーションやパフォーマンスの低下に直結するため、新入社員が定着しにくくなる要因となります。
将来性に対して不安がある企業
入社後に企業の内情が分かり始めると、競合他社との関係や自社の立ち位置などを実感するようになります。企業の安定性や成長性が不明確であると、新入社員は失望を覚え、長期的なキャリアの不安を抱えるようになるでしょう。
安定感があり、より自分が成長できるような将来性のある会社に目移りし、転職を考えやすくなります。企業の目指す目標や方向性などを社員に周知し、期待や役割を十分伝えることが必要です。
教育体制が整備されていない企業
新入社員に対する教育や研修体制が不十分な企業では、仕事に対する不安や不満が増大しやすくなります。教育が不足していると、社員のスキル向上や業務適応が進まないため、モチベーション低下につながります。
社員が仕事にやりがいを持って取り組み、成果をあげるためにはきちんとした教育体制が不可欠です。教育体制が整備されていない場合は、社員は自分が成長できる環境を探すようになり、早期退職の原因となります。
評価制度があいまいな企業
評価制度があいまいな企業も定着率が低くなります。評価基準や評価方法が明確でない企業では、社員は自分の成果や貢献がどのように評価されるか分かりません。自分の頑張りが認められているのか不明なため、不満が募りやすくなります。
評価の不透明さは社員のモチベーションを低下させ、定着率の低下につながる可能性が大きいです。社員が納得できるような明確な評価制度を導入し、公平感を持たせることで定着率向上が目指せます。
新入社員の定着率を上げる方法
新入社員の定着率を上げるためには、離職の原因となっていることを特定し改善することが必要です。自社のケースに合った方法を取り入れ、定着率向上を図りましょう。
採用段階で新入社員とのミスマッチをなくす
定着率を上げるためには採用段階から自社と応募者の相性を見極めることが重要です。適切な候補者選びと情報提供は、定着率向上に有効です。採用基準やフローを見直すことで、入社後のミスマッチを防ぐことができるようになります。
採用時には、企業の業務内容や職場環境、期待される役割を明確にし、応募者にリアルな情報を提供しましょう。職場を見学してもらうなどして、自社の文化や雰囲気、業務環境に馴染めそうか確認することも大切です。
社内のコミュニケーションの活発化を図る
入社後には定期的なミーティングやチームビルディング活動を行って、社内のコミュニケーションを促進しましょう。風通しのいい職場づくりは、社員のモチベーションアップに効果的です。
業務関係に関わらず同僚や職場の人たちと交流を持つことは、職場の一員としての自覚を促すことに役立ちます。情報共有とチームの一体感が、新入社員の職場適応をサポートし、定着率の向上につながることが期待できます。
福利厚生を整備する
社員の生活や健康を支える福利厚生制度を充実させることも重要です。自社の労働環境や福利厚生制度が適正であるか見直すことから始めましょう。新入社員世代は仕事とプライベートの両方を大事にする価値観を持っています。
良好な福利厚生や、ワークライフバランスの取れた働きやすい職場環境は、社員の満足度を高め定着率を向上させます。企業が労働環境を良好化させる取り組みをしていることを社員に示すことも重要です。
メンター制度を導入する
先輩社員がサポートにつく「メンター制度」の導入も新入社員の定着に効果があります。経験豊富な社員をメンターとして新入社員に配属し、業務や職場環境、メンタル面についての支援を行います。
メンターは直接業務に関連しない部署から選ぶため、リラックスした対応や、幅広い相談ができるのがメリットです。メンターによる指導や支援は、新入社員の職場や業務への適応を助け、定着率の向上につながります。
新入社員のメンタルケアを欠かさない
定期的なカウンセリングやサポートを提供し、新入社員のストレスや不安を軽減することも大切です。新入社員が仕事に慣れないうちは、業務の進行や職場内の人間関係などでストレスを感じやすくなります。
社員に対し心身の疲れが溜まっていないか、休息がきちんと取れているかを定期的にチェックするようにしましょう。メンタルケアサポートの充実は、社員の健康を守り、定着率を高める重要な要素です。
明確な評価制度を導入する
社員の退職理由に評価制度が考えられる場合は、明確な人事評価制度の導入が必要です。社員が、仕事での成果や頑張りが認められず適正な評価を得られないと感じるとモチベーション低下につながります。
公正かつ透明な評価制度を導入し、成果や貢献を適切に評価すると、社員の納得感を得ることができます。昇進を目指すなど期待を感じながら働けるので、順調にキャリアを積んでいくことができるようになるでしょう。明確な評価基準は、社員のモチベーションを高めるとともに、目標達成への意欲を促進します。
新入社員の定着率を高めて、企業力を強化していこう
新入社員の定着率が低いと、採用コスト増や生産性の低下につながり、企業の損失になります。企業が永続的に発展していくためには、自社の課題を直視し定着率を高めるように改善していくことが必要です。
定着率を高める施策は既存社員の働きやすさやエンゲージメント向上にも効果があります。労働環境を見直し、定着率の高い企業体質への改善を実施して、企業力強化やパフォーマンス向上を目指しましょう。